《MUMEI》
5.
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真理「ねぇ〜。」

部屋に入った真理はベッドのふちに腰掛け、徹からプレゼントされたグッチチのバッグを撫でながら上目づかいに徹を見た。

徹「どうした?…まさか…『バッグの中に何も入って無いから買ってぇ〜』なんて言うんじゃないだろうな?」

真理「買ってくれるの?それなら、グッチチのお財布がイイわ!」

徹は驚いた。

真理「…なんてね。嘘よ嘘。違うわよ。先にお風呂に入る?って聞きたかったの。」

徹はヤレヤレという感じでバスルームの方へ向かおうとした、が立ち止まり真理が座っているベッドへと引き返し真理の隣へ座った。

徹「もうすぐモーニングが来るから食べてからにするよ。」

真理「じゃー私も、そうする。一緒に入ろ。」

徹は今度はビックリした。
まさか真理が『一緒に風呂に入ろう』なんて言うとは思わなかったからだ。
いつもの真理なら絶対に一緒に入ろうなんて言わない。
徹はプレゼントしたグッチチのバッグの効果に感謝した。
そして今度はグッチチの財布を買ってあげようと思った。

その時、ドアをノックする音がしてワゴンを押してボーイがモーニングを運んで来た。
ボーイは笑顔で2人に会釈をしてテーブルにモーニングを並べた。
モーニングと言っても皿数は机からはみ出すほどだ。
モーニングを運び終えたボーイに徹は、さりげなくチップを渡した。
ボーイは、そのチップの枚数に、ますます笑顔になり深々と頭を下げた。
徹から貰ったチップはチップという金額ではなかった。なんと一万円札が7枚もあったのだ。
ボーイはタイミングが良かった。
徹は真理の言葉に完全に浮かれていたのだった。
ボーイは何度も何度も深々と、お辞儀をしながら部屋を出た。
真理は一瞬呆れた顔をしたがモーニングを小皿に取り分け徹の顔を見て微笑んだ。
そんな真理を見ながら徹は最高の気分だった。

グランドピアノホテルは特別階のロイヤルスイートルームだけ露天風呂がある。
もちろん真理達がいる部屋がロイヤルスイートだ。
露天風呂は有名な温泉のお湯を運んでいる。
15階から眺める景色は最高だ。
露天風呂がある方向には高いビルは一切ない。
町並みの向こうには美しい山々が見える。
露天風呂に入ると町並みが見えなくなりキレイな山々だけが見える。
その景色は、かなり計算した作りになっている。
夜になれば山々も暗闇に消え星空だけになるので、まるで宇宙空間の中にいるような世界が広がる。


ボーイはニヤニヤしながらエレベーター前に来た。
エレベーターはちょうどボーイの前で閉まった所だった。
ボーイは廊下でポケットから徹から貰ったチップを出して数え始めた。
チップを数え終わるとエレベーターのボタンを押した。
するとエレベーターのドアがすぐに開いた。
中には丈がいた。丈 はエレベーターに焦って乗ったのに動揺していて1階のボタンを押していなかったのだ。
丈 とボーイは暫くお互いに見つめ合った。
2人とも何が何だか分からない状況だった。
ボーイはチップを広げた状態で気まずかったのか、エレベーターに乗り込むと勝手に話し始めた。

ボーイ「いや、あの、これね。今、チップで貰ったんですよ。アハハ。気前のいいお客さんで、夫婦なのかなぁ?どう見ても不倫って感じだったけど…女性の方はモデルさんの様に美しくてね、アハハ。男性の方は凄い金持ちだったなぁ、アハハ。」

丈「真っ赤なスポーツカーの?」

丈 が呟いた。

ボーイ「あれ?浦道さんをご存知なんですか?」



つづく

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