《MUMEI》
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 想い出の場所、それは幼少の時を暮らしてきたハイリッヒ家の屋敷だった。今は空き家となり廃れ果てているが、あの頃は眩しいほどに輝いていた。しかし残酷なもので、年月が壁を風化させ、整えられていた庭は雑草が鬱蒼と茂りもはや見る影もなく、ハイリッヒの名を象徴しているようでもある。
 エリザが消えたあの日からカイルはこの場所に戻ることは一度としてなかった。両親やエリザとのたくさんの想い出が残っているここに居続ければ、その想い出と現実の落差に押し潰されてしまいそうだったからだ。
 こうしてやって来た今も、胸を締め付けられ息苦しさを感じてしまっている。
 足元を隠している雑草を踏みしだきながら周囲を窺うが、エリザの姿は見当たらない。
 エリザが待っているのはさらに奥にある中庭だろう。あの場所は幼少のカイルたちにとって残された安息の場所と言えた。孤立を選び、人と会うことを拒絶したエリザは屋敷に籠りきりになってしまい、精神状態も不安定だったことから体調を崩していく一方だった。そんな妹を見るに見かねたカイルは、外に出る事の大切さを必死に言い聞かせたのだ。結果、彼女は人目につかない中庭ならと兄の頼みに応じた。
 それがきっかけでエリザは多少なりとも日に当たるようになり、徐々に健康を取り戻していった。あの場所は小さかったエリザにとって特別な場所となり、好んで中庭に出るようになった。それからだ、あの場所がエリザの言う『想い出の場所』となったのは。

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