《MUMEI》
・・・・
 あそこには様々な記憶が眠っている。
 歩調に合わせ軋む床を抜け、屋敷に囲まれる形にある中庭に出た。そこは特に風化が酷くそこから見える壁や窓は半壊していた。
 壊れ、寂びれた景色の中で、一輪の華を認めた。それは純白のドレスに包まれ、凛と木の下に佇んでいる。あのとき漂わせていた儚く弱々しい美は消え去り、敵を撥ね退けるほどの逞しさを備えた至高の美となっていた。
 そして華に群がる虫のように、妖魔たちが周りにつき従う。
 さきほど会ったときとは別人のような顔つきをして、エリザはカイルを迎え入れた。その碧色の瞳に迷いは一切映らない。
 目に掛かるほど長く伸びた黒髪の隙間から、漆黒の瞳が確固たる敵意を持ちエリザを見据えた。

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