《MUMEI》 「剣………ごめん…好きだ……」 艶っぽい声で、帝は俺の耳にそんなことを囁くと、くち、と俺の耳を舐めた。 「あっ……」 不意に溢れた甘い鼻につく声。 「へぇ、感じるんだ。耳。」 悪戯っぽい、帝の声がした。 でも俺には、帝の表情が見えない。 「いや……」 突然、体を反転させられ、冷たいフローリングの床に押し倒された。 「帝……何だよ……」 目の前に見えた帝の顔。 「剣、好きだ。好きだ。………好きだったんだ。ずっと……」 今にも泣き出しそうな帝の顔。 「……何で……?何でお前がんな顔してんだよ?」 泣きたいのはこっちだ。 「つるぎ───」 消え入りそうな程小さい、俺の名を呼ぶ帝の縋るような震えた声が俺の鼓膜を震わせる。 「俺ら、ガキん時からのダチじゃねぇの?お前、俺のダチじゃなかったのかよ?俺さ、さっきあんな言い方したけど本当は嬉しかったんだぞ?お前が帰って来たこと。」 口から溢れるのはやっぱり帝に対する疑問ばかりで。 また、視界が涙で滲み、歪んで霞んでる。 溢れそうな涙を溢すまいと、ゆっくり目を閉じた。 ギュっとキツク。 キツク。キツク。キツク。 手にも力が篭って、掌に爪が食い込む。 前へ |次へ |
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