《MUMEI》
悩みの種
女中頭・各務野は、ほとほと頭を悩ませていた。


その理由ははっきりしている。


己の主、斎藤道三に命ぜられ、身無し子の世話を仕ったのだが、

その稚児が、悩みの種だった。

数日前、道三が遠征から帰還したとき、その幼子を連れ帰って来たのだが、その子の身なりといったら、酷いものだった。

伸び放題の黒髪は、一度も櫛を通したことがないのか、艶はなく、毛先はこごなっていた。泥まみれの肌に纏っている布は、あちこちボロになっていて、どう見ても着物とは呼びがたいものだ。

道三に呼ばれ、その稚児と初めて接見した際、その身体から放たれる異臭に、各務野は顔をしかめ、己の着物の袖で鼻を押さえた。

…よくもまあ、このような汚らしい子を拾ってきたものだ。

道三はそんな各務野の様子をものともせず、のうのうと言った。

「これから、そちを、この稚児の傍付きとする。稚児の面倒、教育、その他はすべて任せよう」

まさに晴天の霹靂。
各務野はたまげすぎて、声を失った。

道三はなんでもないような顔をして、続ける。

「まずは風呂だな。少し臭いがきつい。清めてやれ」

言い切ると、道三は各務野に稚児を連れて下がるように命じた。

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