《MUMEI》

各務野は渋々、その稚児の身体を洗い場でボロを脱がせ、清め始めたのだが、

そのときに、ようやく気がついた。

…女子?

稚児は女だった。

裸になった稚児には、男の尊厳たるものが見当たらなかった。

稚児はとても幼かったし、さらには見なりのせいもあって、パッと見ただけでは男なのか、女なのか、判別出来なかった。

稚児の身体を洗いあげ、他の侍女達に幼子を任せると、各務野はすぐに道三のもとへすっ飛んで行った。

「あの稚児は、童女にございました」

額を床にこすりつけながら各務野が言うと、道三は館中に響き渡るような声で、大笑いした。

「そうか、女であったか!それは分からなんだ!」

呑気な口調で返す主に、各務野は顔をあげ眉をしかめる。
その表情を眺め見て、道三はさも愉快そうに言った。

「兵士や俺を目前にしても、怯まぬあの度胸は、てっきり男のものかと思い込んでいたが、そうか、女か!それはもったいないのう!」

そうして、また大声で笑うのだ。

各務野が神妙な顔をしていると、道三は笑うのを止め、それからニヤリと笑った。

「ますます気に入った!各務野、あの稚児をここへ連れて参れ!」

いつになく上機嫌な主を訝しく思いながらも、各務野は言われた通りに、童女を連れて来た。

.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫