《MUMEI》

すっかり身を清めた幼子は、別人のような佇まいをしていた。

ほつれきっていた黒髪は侍女達によって丹念にとかされ、艶やかな輝きを放っていたし、泥で汚れていた肌は、上質な陶器を思わせるような透明感に溢れていた。
身に纏う着物も、鮮やかな浅黄色で、それが童女の白い肌をより一層際立たせていた。

顔つきも非常に整っていて、それが余計にその幼子の神秘性を物語っている。

高貴な姿の幼子に、各務野は息を呑んだ。

…これは、もしや、どこか位のある方の堕とし胤では?

そういうことであれば、あの道三がこの子供に入れ込むのも納得がいく。

各務野が幼子をともなって、再び道三の元へ向かうと、

道三は幼子を見つめて、尋ねた。

「どうだ?すっきりしたか?」

幼子は少し間を置いてから、こくん…と頷いた。それを見て、道三は嬉しそうに笑う。

「城はどうだ?美濃の暮らしも悪くないだろう?」

続けて尋ねた質問には、幼子は答えなかった。黙ったまま、道三を見つめている。

その瞳は、あの山里で初めて出会った時のまま、何等変わっていなかった。

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