《MUMEI》
鬼の謂れ
道三はいよいよ可笑しそうに笑い、「各務野…」と呼びかけた。

「そちは、『鬼』の謂れを知っているか?」

いきなり尋ねられて、各務野は眉間に皺を寄せる。

「『鬼』、でございますか?」

言葉を繰り返して、考えた。

『鬼』と言えば、
古くから言い継がれる、世にも恐ろしい形相をした化け物。額には角が生え、人間の数倍も大きな身体を持つ異形。

恐ろしい『鬼』の姿を想像しながら、各務野は首を傾げた。

「さあ…よく存じません。お伽話で耳にするくらいで」

とぼけた返事に、道三は目を光らせた。
そして、口元を歪ませて笑い、
とんでもないことを、口にした。

「『鬼』は偶像ではない。実在するものだ」

気でもふれたか、と各務野は思った。だが、目の前の道三は真剣な面持ちで続ける。

「ひとつの時代に属さず、時を渡り歩き、流れゆく民…それが『鬼』だ。奴らは、何処からともなく姿を現し、人知れず消えていく」

各務野には、その話の意味がよく分からなかった。

『ひとつの時代に属さない』
『時を渡り歩き、流れゆく』

その表現すべてが曖昧で、道三が一体、何のことを言いたいのか、理解出来なかった。

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