《MUMEI》

道三は各務野をしっかり見据え、低い声で諭すように囁いた。

「よいか?『鬼』は時を渡る。まだ見ぬ先の世、もしくは過ぎ去りし時へ…我々のようにひとつの時に縛られることなく、流れ続ける。己が持つ、魔力によってな」

そこまで聞いて、各務野はようやく意味を理解した。
しかし、それは同時に、安易に頷き返せるような話ではなかった。

つまり、『鬼』という化け物は不思議な力によって、通常の時間の流れから独立して、過去や未来へ移動するという、有り得ないことを言っているのだ。


…からかわれているのだ。


各務野は表情を引き締め、毅然とした態度で主に向かってきっぱりと言う。

「この各務野をからかうなど、お屋形様もお人が悪いこと。少々、お戯れが過ぎます。だいたい、今は『鬼』ではなく、この童女の話をしていましたのに」

拗ねたように咎めると、道三はフッと口元を歪ませて、幼子の顔を見つめた。

「そうだ、俺は今、濃の話をしていたのだ」

各務野はますます眉をひそめる。

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