《MUMEI》

道三は濃へ向き直り、
それから、真剣な眼差しで、彼女の、その端正な顔を見据えた。

「なにかあれば、すべてそこの各務野が請け負う。他の兄弟とも顔を合わせておくといい。これから、長い付き合いになるだろうからのう…」

童女…濃は、なにも答えなかったが、微かに頷き返した。
そんな彼女の姿を見て、道三は満足そうにほほ笑んでいた。



******



…とにもかくにも。

突然現れた濃の存在は不気味なものを感じたが、
主に直々に命じられたのなら、仕方がない。従う他、ない。

各務野は、それからというもの、濃に付きっきりで世話をした。

濃は、意思の疎通は出来るものの、読み書きは全く出来なかったので、まずはそこから始めた。

仮名を丁寧に教え、簡単な読み物を聞かせることを日課とした。
濃は元々賢く、それらは難無く習得出来たが、やはり自発性が乏しく、自らの意見を口にしたり、感情を表に出すこともなかった。

…どうしたものやら。

濃と同じくらいの歳の子供なら、自我が芽生え、多少の我が儘を言ってもおかしくはないのに。

怖いくらい落ち着いている濃を、すぐ傍で見ながら、各務野は先が思いやられて仕方なかった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫