《MUMEI》

各務野は胸に渦巻く悲しみを振り切るように、濃にかけるべき言葉を探し、
それから、慎重に言った。

「もちろんですよ。姫の想いは必ず、あの蝶が遠く離れた両親に、届けてくれることでしょう」

聞こえなかったのか、もしくは聞こえない振りをしたのか。
濃は各務野の言葉に振り向くこともせず、ただじっと身を固め、蝶の行く末を見守っていた。

各務野も、それ以上はなにも言わず、濃の視線を、追いかけた。

手入れの行き届いた、美しい庭で戯れていた蝶は、神妙な面持ちの二人を嘲笑うかのように、一度、大きくひらめいて、

真っ青な大空へと、その姿を消した…。



******



その日を境に、濃は次第に心を開きはじめたようだった。

といっても、相変わらず表情も乏しいし、自ら意思を口に出したりはしなかったが、尋ねたことにはきちんと言葉で返すようになった。

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