《MUMEI》 本当の兄妹各務野も、そんな濃への接し方を心得始め、以前よりも意思の疎通が楽に感じ始めていた。 「今日は、少し長い読み物をお持ちしました」 そう言って、各務野が書物を開きはじめたとき、 突然、意外な人物が現れた。 「…各務野はおるか?」 いきなり名を呼ばれ、各務野がハッとして顔をあげると、 回廊からひょっこり顔を覗かせた、少年がいた。 彼の顔を見て、各務野は目を見張る。 「若様!」 素っ頓狂な声をあげると、濃も自然と顔をあげた。 少年と、濃の視線が、絡み合う。 各務野は本当に驚いていた。 なぜなら、今、現れた少年は、この美濃国当主・斎藤道三の嫡男、豊太丸だったからだ。 豊太丸は濃よりも少し年上で、まだ元服は済ませていないものの、美濃国の跡取りとして大切に育てられていた。 慌てふためきながら、「いかがされました?」と尋ねる。 前へ |次へ |
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