《MUMEI》
異変
各務野は慌てて、彼を制止する。

「それはわたくしが致します。若様がなさることではございません」

奪われた書物を取り返そうとしたが、豊太丸はそれを阻んだ。

「俺もちょうど退屈していた。暇つぶしだ。各務野が気に病むことではない」

あっさりと一蹴され、各務野はポカンとした。豊太丸は気にした様子もなく、再び書物を読みはじめた。
濃もやはり困惑することなく、この状況を受け入れ、豊太丸の声に耳を傾けていた。

困惑しながらも、各務野は、まるで本当の兄妹のように、肩を並べる幼い二人を眺めて、

どこか、ほほ笑ましさを感じていた。


このような穏やかな幸せが、ずっと続くのだと、

各務野は考えていた。

しかし、それは、間違いだった。

なぜなら、濃は、

かつて道三が言った通り、

『鬼』の血を引く、娘だったから…。



******



濃に『異変』が現れたのは、城にやって来てから、少し経った頃だった。

夜の帳が降り、各務野もそろそろ休もうと、自身の閨へ向かって回廊を歩いていたとき、

不意に、濃の閨を覗いた。

大分前に、濃は寝かしつけたはずだったのだが、

褥に、彼女の姿が無かった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫