《MUMEI》

「ん。熱はないね。どうする?保健室行く?」

フッと離れた額同士。
息の仕方を忘れ、ジッと息を止めていた俺は、大きく息を吐き出した。

「別に大丈夫。何でもねぇよ」

俺の心臓は、痛いくらいにバクバク鳴っていて、未だに顔の熱が引かない。
それでも、ふい、と陽和から視線を外し、何でもなかったように装った。

「そっか。なら良いけど。」

綺麗な顔に、屈託ない笑顔を作り、向けてくるそれは、俺には眩しくて、真っ直ぐに直視できない。

「そういや、アイツら来ねえな。」

そろそろ、普段のアイツらなら集団で、ギャアギャア犬っころみたいに。まぁ、主に永久一人でだが、騒ぎながら、弁当を持ってやって来る時間帯だ。

「そう言えばそうだね。」

陽和は、チラリと黒板の上に掛けられているアナログ時計に目をやって、相槌を打つ。

「まぁ、別に直ぐ来るんじゃない?」

柔らかく笑ったあと、陽和は机の向きを俺の方に向けて椅子に座り直し、ランドセルから弁当を取り出した。

この学校では、小学校の五年生になると給食は無くなり、中学校に合わせ、基本的に弁当に切り変わる。

俺も、紺色のランドセルから弁当を取り出し、藍色のハンカチに包まれた二段弁当を開いた。

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