《MUMEI》

各務野は慌てて部屋へ入り込んだが、やはり見紛いなどではなく、どこにも濃はいない。

…こんな夜中に、一体どこへ?

厠へ行っているのだろうかとも思い、各務野は離れにあるそこへ向かったのだが、濃は見つけられなかった。

各務野の胸に、不安が過ぎる。

…まさか、逃げ出した?

そう思い付くと、彼女は踵を返して、すでに寝付いていた他の女中達を叩き起こし、屋敷中を捜し回った。

しかし、どこを見ても、濃を見つけることは出来なかった。

各務野は、青ざめた。

…お屋形様に、なんと申し上げれば良いのか。

濃に関してのことは、すべて各務野が請け負っていた。だから、もし、濃がいずこかへ逃亡したとなれば、彼女自身の進退が危うくなる。

道三の怒りを考えると、すーっと血の気が引いていく思いがした。

いても立ってもいられず、各務野は再び、濃の閨へ向かった。失踪したのだとしたら、もしかしたら、何らかの書き置きなどがあるかもしれないからだ。

バタバタと騒がしく濃の閨へ駆け込んだ各務野は、

思わず悲鳴を飲み込んだ。


−−−部屋の中程にしつらえられた褥に、

安らかな寝顔を浮かべた濃が、

横になっていたから。


…いつの間に?

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