《MUMEI》
重なり
帰り際、与えるように差し出してきた手の中に私も手を伸ばした。彼は包むように両の手で私の手を包んだ。
『来てくれてありがと。』
そう言って笑った。
コンサート会場からはすでに人は抜け、親しい友人達が残って話合っているくらいだ。包みが解け、手から温もりが消える事を感じて私も手を握り返した。
『うん、こちらこそ呼んでくれて嬉しかった。』
軽快に笑い、軽い握手を返す。伝えたい事も、聞きたい気持ちも自ら作った爽やかな笑顔で掻き消えたように感じた。
まだ話したい。何も噛み合わない。そんな気持ちのまま二言三言必死に雑談して…またね。そういって別れた。


帰りの電車の中、私は泣いた。



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