《MUMEI》

まだ遠くに見えるそれは周りに建つビルと何も変わらないように見える。
白い外壁に何階まであるのかわからないほどびっしりと敷き詰められた窓。
きれいなビルだ。
「なあ、あれほんとにあいつらの本拠地なのか?」
ユウゴの視線を追っていたケンイチが眉を寄せて首を捻る。
「なんか、普通の会社っぽくね?」
「そうか? じゃあ、どういうのがそれっぽい建物なんだよ?」
ユウゴが問うと、ケンイチはニヤリと笑みを浮かべて答えた。
「そりゃ、見た目はこう、汚れがひどくてだな。だいたい三階建てで、外壁はひび割れだらけで窓割れてて。あ、あと落書きだらけでだな……」
「廃屋じゃねえか」
思わずユウゴが突っ込むとケンイチは大きく首を横に振った。
「ちっげえよ! 悪の巣窟って感じだろうが」
「悪ガキのたまり場だな」
二人の会話を聞いていた織田にそう言われ、ケンイチはふて腐れたような表情で黙ってしまった。
そんな会話をしているうち、三人の数十メートル先までビルは近づいていた。
ユウゴは一度立ち止まり何気ない仕草で街路樹のブロックに腰を下ろす
その周りに織田とケンイチが立つ。
これならば一見すると立ち話をしているようにしか見えないだろう。

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