《MUMEI》

しばらくわたしを観察してから、男の子は言った。

「親とはぐれたか?」

わたしはなにも答えず、彼を見つめた。
彼はわたしの視線を鼻で笑い、呟いた。

「気にくわんな、その眸は。子供のくせに澄ましよって」

悪態にも、わたしは怯まなかった。


−−−確信していた。

この、男の子は、

わたしを、

危険にさらすことは、ないのだ、と、


最初から、分かっていた…。


黙り込んだわたし達の間に、沈黙が流れる。

しばらくして、男の子が、根負けしたように、ため息混じりに言った。

「…お前の村はどこだ?送り届けよう」

「ついて来い」と言い切って、彼は突然踵を返し、スタスタ歩いていく。わたしは素直に彼の後を追いかけた。
男の子は颯爽と、進んでいく。流れゆく風のように、軽やかな足取りで。

遠くから、男の子が二人、こちらへ近づいて来るのが見えた。

彼らは、この不思議な男の子を見て、「吉法師様!」と口々に呼びかけていた。


…《キッポウシ》?

この男の子の名前だろうか。

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