《MUMEI》

少年は、彼らに手を挙げて簡単に合図を送った。それからわたしを振り返って、

呆れたように、ため息をついた…。

「置いて行くぞ。早く来い」

わたしは、歩幅の大きい彼を追いかけるのに必死だった。


−−−そして、

慌てていたわたしは、石に蹴つまずき、

なすすべなく、砂利の上に倒れ込む…

筈、だった。



しかし。



わたしは、身体がフワリと浮き上がるような浮遊感を覚えた。視界も、瞬時に色を無くした。
それは、今まで感じたことのない感覚だったので、さすがのわたしも、怯えた。

墨絵のような白黒の世界の中で、じたばたと手足を振り、必死にもがいた。

わたしの周りの人達は、時間が緩やかに流れているかのように、ゆっくり…とてもゆっくりと動いていた。


もちろん、目の前にいた、
キッポウシといった、あの少年も。


彼の驚いた顔が、

突然、グニャリと歪んだ。


…か、と思ったら、

わたしの意識が、身体が、とてつもない力に引っ張られるように、ズルズルと暗闇へ引きずり込まれていった。

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