《MUMEI》

わたしはその力に抗い、壁も床も天井もない暗い世界で、必死に足を動かし、宙を走った。

遠くから、ギリギリ…ギリギリとなにかが軋む音が、聞こえてくる。

ギリギリ…ギリギリ…と、

遠くなり近くなりしながら、鼓膜に響いた。


…あれは、きっと、

《時》が刻まれる、音。

新たなる《時代》へ駆け抜ける為の、

その扉が開く、音−−−。


音が、わたしの方へ迫ってくる。

わたしはきつく目を伏せ、

そして、意識が、途切れた………。





−−−気がつけば、

自分の閨で、朝を迎えていた。

まるで、何事も無かったように。


…夢だったの?


きっと寝ぼけて、そんな夢物語を見てしまったのだ。
そう、独り決めしていた。

けれど、

その夢で出会った《キッポウシ》に、そのあと、夜、閨で眠ると、何度となく出会うこととなった。

「なんだ、またお前か!?驚かせるな!」

突然現れたわたしを見る度、呆れたように、言う彼にも慣れた。

そうして、そこで、他愛ない話をするうち、気がついたら、また、わたしは美濃の稲葉山城の、自分の閨に戻っているのだ。



さらに、不思議なことに、

《キッポウシ》は、再会する度に、

その齢が、変わって見えた。



初めて出会ったときは、彼は15くらいだった。

2回目に出会ったときは、30歳近く。

3回目は、20過ぎだった。



それがなぜなのか、分からずにいた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫