《MUMEI》
・・・・
 エリザは不平を口にするアーヴァンクの短い前足に触れると優しく撫で微笑んだ。それだけで恐ろしい姿をしたアーヴァンクがほんの少し和らいだように見えた。
 「そのような言い方はよしてアーヴァンク。あの方はわたくしの兄さまなのですから、他の人たちのように簡単にはいかないの」
 兄と言う言葉を聞き、アーヴァンクの雰囲気が一変する。怒りを堪えるかのような唸り声が上がった。
 「ほう、あれがお前の話していた・・・なれば竜の血を引き継ぎし者か」
 エリザの口から誇らしげに語られていた兄、カイルを品定めするようにアーヴァンクはその姿を舐め回す。
 かろうじて得物は手放していないものの、彼の片足は水弾の餌食となり満足に動くことの出来ない状態である。結末が見て取れるその滑稽な姿にアーヴァンクの不平不満は増長した。
 しかし身動きは取れないものの、カイルのその漆黒の瞳に宿る意志は消えてはいない。むしろ強さを増していると言ってもいいほど、射殺すような眼光の鋭さをしている。

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