《MUMEI》 顔を俯かせたわたしに、 《キッポウシ》は屈託なく、繰り返し尋ねてくる。 「名は何という?」 わたしは彼をゆっくり見上げ、 それから、正直に答えた。 「…ありません」 わたしの返事に、彼は少し驚いたようだった。わたしを見つめたまま、首を傾げる。 「それは、不便だな…」 独りブツブツ呟いていたかと思うと、いきなり、「よしッ!」と大きな声をあげた。 「ならば、授けよう」 突然の申し出に、わたしは驚き目を見張った。彼はわたしの様子に気づかず、腕を組み、真剣に考え込んでいる。 しばらく、ウンウン唸ったあと、パッと顔を明るくさせ、わたしの顔を見つめた。 「お前は今日、このときから『帰蝶』だ。『帰る蝶』と書き、『帰蝶』…そう名乗るといい」 …キチョウ? わたしが戸惑っていると、彼は不敵に笑いながら、 続けて、こう言った。 「これから先、ずっと、俺のもとへ帰ってくるようにな」 意味深な台詞を残し、《キッポウシ》は笑った。 前へ |次へ |
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