《MUMEI》
謎の言葉
.

−−−それから。


わたしは、しばらく、《キッポウシ》に会うことが無かった。夜、眠りについても、彼がわたしの前に現れることはなかった。

けれど、彼が呟いた、あの言葉…。

『俺のもとへ帰ってくるように』

それが、わたしの頭の中から、消え去ることは、無かった。

各務野や兄の豊太丸様に勉学を教わるだけの、平穏な毎日に、戻っていった…。



******



各務野は、突然現れた乙女に、恐怖すら覚えた。

美し過ぎるその顔立ちは、この世のものとは思えぬ程、業々しさを感じた。

「…何者です?」

震える声で各務野が尋ねれば、その乙女は漆黒の瞳を細め、
淡く、ほほ笑む。

その微笑に、各務野はより一層恐ろしく思った。

「名乗らぬならば、ひとを呼びます」

気丈にも、そう言葉を続けた時、
乙女は紅をさした赤い唇を微かに開き、
呟いた。

「かがみの…」

舌の上で、ゆっくりと、転がすような言い方だった。
鈴の音を思わせるような、澄んだ響きに各務野はつい、目を見張る。

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