《MUMEI》 困惑顔の各務野をよそに、 乙女は、去り際に、言った。 「…濃姫にお伝えください。今は会えなくとも、吉法師様には必ず巡り会える…と」 各務野はまた眉をひそめた。 なぜ、濃のことまで知っているのだろう。 近隣諸国には、まだ、濃の存在を公表していない。 …美濃国内部の者か! 各務野は、そう考えついたが、すでに遅く、 謎の言葉を呟くと、乙女は夜の闇の中へ、ユラリと姿を消した。 我に返った各務野は、慌てて縁側から飛び降り、庭を探したが、乙女の姿は見つけられなかった。 …あれは、一体。 それからハッと思い出す。濃が消えてしまったことを。 急いで縁側にのぼり、濃の閨に戻ると、 各務野はまたしても驚愕した。 さっきまで、忽然と姿を消していた濃が、すでに褥の中で、安らかに眠っていたからだ。 まるでなにも、無かったかのように。 その愛くるしい寝顔を眺めながら、 各務野は、先程の帰蝶と名乗った乙女の言葉を思い出していた。 『吉法師様には必ず巡り会える』 《キッポウシ》という名も、各務野は聞き覚えが無かった。 …どういうことでしょう? 各務野の戸惑いをよそに、 美濃国の夜は更けていった…。 ****** 前へ |次へ |
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