《MUMEI》

早さに追いつかず、避ける事が叶わなったジキル
鳩尾を蹴りつけられ後方へと弾かれた
「クラウス、いい事を教えてあげる」
壁へと叩き付けられ、だが痛みに顔を歪める事もせずジキルは淡々と話す事を始める
「……人の世はね、昔から魔のヒトの死体を戴く事で保たれているの」
ジキルの語る声に
クラウスはかつてを思い出す
見せしめの為多くの人間の前で手足を斬り落とし
まだ息のある内に土へと埋める
そうして枯渇しかける土を肥やしていくことに誰一人として疑問など抱かず
まだヒトだったクラウスはその残酷さに吐き気を覚えた
誰かを、何かに犠牲を強いるセカイ
ソレをさも当然だと思っているヒト
その全てに嫌気がさし、顔を伏せてしまっていたクラウスに
『……一緒に、来るか?』
そう言って手を差し伸べてきたのがジゼルの父親だった
ヒトの世に絶望したのならば来い、と
その誘いに、クラウスは迷う事なくその手を取って
クラウスが(ヒト)を見限った瞬間だった
「あなたはあの魔族に従属した。そして今はその子供に」
「俺がどういう身の振り方をしようがお前には関係ないと思うが?」
「有るわ。……裏切り者、裏切り者!」
怒の感情も顕わにジキルは刃を振って上げる
降ろされる、次の瞬間
クラウスは脚を蹴って回し、その柄を蹴り付けた
真っ二つに折れた鎌
刃ばかりが宙を舞い、床へと突き刺さる
「……絶対に、殺してやる。あの子供も、そしてあなたも!」
獲物を失ったジキルは踵を返しながら、罵倒しながらその場を後に
ソレには一瞥すらくれてやらず、クラウスはジゼルを寝台の上へ
白のシーツの上、朱のシミが広がる
「クラ、ウス」
どうやら背の痛みに眼を覚ましたらしいジゼル
薄く眼を開くと、何かを訴えるかの様にクラウスの袖を掴んだ
「お嬢様、すぐに手当てを。酷い傷です」
「いい、私の事は。それより」
言いながらジキルはクラウスの首へと腕を絡ませ
抱けと強請りながら
「……父様を、探して」
耳元で呟いた
主からの訴えにクラウスは僅かに眼を見開いて
改めてジゼルの方を見やった
「お願い、クラウス。父様の骨を探して。早くしないと……」
「畏まりました。お嬢様」
だがジゼルの訴えを聞き届けてやりクラウスは頭をたれる
ソレを見、安堵したのかゆるり眠りへと落ちていくジゼル
その額へと口付けてやりながら、クラウスは普段通り穏やかに笑みを浮かべたのだった……

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