《MUMEI》
・・・・
 「随分と偉そうな口を叩いているがあまり図に乗るな。図体ばかりでかい愚鈍な爬虫類が」
 握り拳ほどもある瞳に物怖じすることなく、カイルはその瞳を睨む。
 足は鈍い痛みが響き続けているが、動けないほどの致命的なものではない。立ち上がり、身の丈ほどもある長剣を構え直した。
 「お前の兄は口の減らんうつけ者のようだな、エリザ。スウェールの主であるこの私を愚弄するとはよほど死を迎えたいようだ」
 カイルの挑発的な台詞にアーヴァンクは言うと、前足を一歩踏み出した。
 この怪物、アーヴァンクは永い時間を生き、様々な人間たちの愚行や醜態を目にしてきた。憤りも呆れへと変わり今は哀れみを抱いている。
 怪物の目にはカイルもその者たちと同じように映っていた。そしてそれ以上にあるカイルへの激しい怒り。
 「私はお前たち穢れた種族が大嫌いだ。不毛な争いを起こし、意味もなく殺める。
 その意味のないものがどれほどの価値ある結果を生みだすと言うのだ。
 ちいさな救いか・・・。しかしそれも誤った結果にすぎない。つまり人間は過ちしか生み出さないのだ。
 そしてそのしわ寄せがこのエリザだ。見てみよ、この娘の心は病んでいる。裏切られ、何の罪もありはしないと言うのに石を投げられ続けたあげく、ごみ同然に捨てられた。
 この娘をこのように変えてしまったのはお前たち人間、これはお前たちが行ってきたことへの報いなのだ」

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