《MUMEI》
・・・・
 「――確かにそうだな、人間は腐っている。人であるオレでもそう考える。
 だが、お前に人間そのものを否定されることは気に入らない。
 お前たちの視野があるように、人間には人間の視野がある。オレたち人間はそのちいさな視野のなかで精一杯に足掻いている。正解もなければ間違えもありはしない。決めるのは人なのだからな」
 現実は過酷なものばかり。
 理想のように、皆が綺麗で幸福な世界などありはしない。どこかで喜びがあれば、どこかで悲しみがある。それは表裏一体で切っても切れない関係にあるから。
 だから、カイルは自分の意思を貫くのだ。自分の意思を尊び、正しいと信じ自由な翼を持ち続けてきた。
 「お前のようなやつが、オレたちの意思を解くことは不可能だ」
 「兄さまの言う通りですわアーヴァンク、その言葉はわたくしをも否定してしまうものです。最後に決めるのは個、それを正しいものにするのもそうでないものにするのもその人次第と言うことです。
 ですからわたくしもこれを選んだのです」
 アーヴァンクの隣にいたエリザが、長く透き通った金色の髪を掻き上げる。白いうなじが覗き、それだけで艶美な匂いを漂わせる。
 契約者に笑顔を向けられ、アーヴァンクは口を閉じてしまう。どうやら契約者であるエリザには頭が上がらないようだった。

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