《MUMEI》

頼芸は道三の画策により弟御を殺され、双方は対立したが、戦の末に美濃を追放され、今は隣国の尾張に潜み、その尾張当主である織田信秀の庇護にある。

…若様が、あの、頼芸公の御子?

各務野は動揺のあまり、なにも言えなかった。

道三は続ける。

「俺は美濃国を奪う為、頼芸の側女であった深芳野と俺は不義をはたらいた。分かるか?つまり、姦通していたのだ」

各務野は青ざめた。
まさか、そのような道徳に背くことを、犯していたとは、想像もしていなかった。

道三は遠くを見るような目をして、俯いた。

「無論、深芳野と密通したのは、恋慕の情があったからではない。頼芸の寝首を掻くため、あの側女を利用したまで…すべては上手くまわっている筈だった」

ふぅ…と、道三はため息をつく。そして、額に手をあて、
低い声で、呻くように言った。

「だが、ひとつだけ、『誤算』があった」

各務野は、眉をひそめた。

「『誤算』、でございますか…?」

繰り返すと、道三は深々と頷いて、
それから息を深く吸い込むと、
掠れた声で、続けた。

「…深芳野は、すでに身篭っていたのだ。疑いもなく、頼芸の子だった」

まさか、と思った。
各務野は信じられない気持ちで、いっぱいになった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫