《MUMEI》 もうひとつの気掛かり道三は各務野の表情を見て、なにかを察したのか、深々と頷いて、はっきりと言った。 「それが、豊太丸だ」 各務野は息を呑んだ。主が紡ぎ出す凄まじい話に、じっと耳を傾けている。 道三はため息をついた。 「確かに豊太丸は俺の子供ではないが、俺はあれを斎藤氏の嫡男として育てた。だが、土岐氏の息のかかった者どもが、豊太丸を利用して、この俺に謀反をはたらくやもしれん…家老達は皆、それを案じて豊太丸を武将にはせず、後に仏門に入れようと思案している。俺のような『下剋上大名』を怨む輩は数え切れんからな」 一息にそう言うと、道三はニヤリと笑った。 「その『帰蝶』とか言う女は、たいしたものだな。この俺に、そのような忠告をするなど」 各務野は曖昧に頷いた。そして、もうひとつ、気になったことを告げる。 「『帰蝶』は、若様のことのみならず、濃姫様のことも口にしておりました」 濃の名を口に出すと、道三の目が険しくなった。 「なんと申したのだ?」 主の剣幕に怯みながらも、各務野は記憶を辿り、答える。 「《キッポウシ》という者に、必ず、再び巡り会える、と」 各務野の台詞に、道三は眉をひそめた。 「《キッポウシ》だと?」 前へ |次へ |
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