《MUMEI》
ドイツ帰省。
  
「ぁん///……ねぇ、今度一緒に俺の家に来ない?」

いつものように俺の部屋に来て事が済んだと同時に、かなたがいきなりそう言ってきた。

「今度のって…春休みか」
「そうだよ♪」

一年から二年になる間の春休み、他の奴らは実家に帰ったり先輩たちは卒業旅行だ何だのでちょっとばかし寮が騒がしくなっていた。

俺はどこにも帰るアテが無かったので寮に残るつもりだった。

「家、って…日本のじゃないよな…」
「うんドイツの家だよ♪」

海外なんて…ましてや旅行とか…。

生まれてこのかた自分のエリア、自分の住んでたマンションや学校その周辺から出た事が無かった。

「どうすっかな…」
「大丈夫だよ、俺がついてるからさ♪」

かなたって風邪の時に看病してくれたり、はるかの恋人の件と言い、双子の弟の方なのに、案外面倒見がいいんだよな。

だから、あんなに友人も多いんだろうな…。

「今度パスポート取りに行こう、はるちゃんに教わってさ」
「あぁ…そうだな」


いつもこの後に自分の部屋に帰るかなたを見送るのが辛くて、ずっと手を繋いだまま寮に繋がる階段を上がっていく。

「かなた…」
「ん?」

男のくせに小さくて柔らかい手を握りながら、薄暗い中で電灯に照らされたかなたの横顔を眺める。

「俺たち大丈夫かな?」
「え、どうしたの武ι」

俺の言葉を聞いてかなたがビックリしたような顔になったけど、やっぱり聞いておかなきゃならない事だったから話す事にした。

「だって男同士…」
「なんだぁ〜そんな事かぁ、別れるって話始めるのかと思っちゃったよ〜」

かなたはホッとしたような顔になり、俺にギュッと抱きついてきた。

そっか、別れ話切り出してるように聞こえたのか…俺ってかなた以外とはあまり人と話す事ねえから話下手なんだよなぁ。

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