《MUMEI》

 



バイト帰り、ふらふらと樹は家路に向かう。


「樹さあ、もっとバイト減らしなよ。」
耳の奥に直接響く声。


「……アヅサ!」
後ろを振り向いた。誰もいない、電柱の光が点々と続いていた。


「久しぶりで淋しかった?」

「阿呆、違う!聞きたいことが山ほどある。」


「いいよ、スリーサイズでもなんでも。」


 「……化野アヅサ!」
樹は叫んだ。


    「はい。」


アヅサは鮮明な返事をする。
独り言に見えるから滅多に会話はしない、今回は特別だ。

「斎藤と双子だなんて聞いてない。」


「俺も初耳。 
アレとは無関係だって。俺はお前の、アヅサだ。

どこかで会っていたことは確かだが、それ以外に俺達は互いを共有していない。

お前が理解出来る範囲内の知識で化野アヅサを構築している。」


「……アヅサ、俺が記憶を無くした間に何をしていた?」
樹は何度も心の中で繰り返した台詞を言う。


「  どれのこと?
生物準備室に居た奴らを襲ったこと?」



「――――お前が……!」



「それとも、私刑した奴らボコボコにしたこと?」


「どうして……」


「どうして?当然だ。
樹を傷つけた。」
眩暈がする。体が、拒んでいる錯覚がした。


「  俺が望んだか?
アヅサがそんなことしても喜ばない!
この体で、誰かを傷付けることはしたくない……」
樹は身を預けた電柱からずり下がっていった。
うなだれ、地面にしゃがみ込む。



  「樹、泣かないで」
アヅサは樹の腕で樹の肩を抱きしめた。




  「泣いていない。」
すぐ肩から手が離れた。

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