《MUMEI》

各務野は、さらに突っ込んで尋ねる。

「お幾つくらいの方ですの?」

濃は少し考え込むようにしてから、言った。

「大人の方でした。わたしより、豊太丸様より、ずっと」

各務野は眉をひそめた。

道三の話では、尾張の吉法師はまだ幼い筈。けれど、今の濃の口ぶりでは、その吉法師は年上であるように思えた。

…人違いか?

考え込む各務野をよそに、濃の隣に座っていた豊太丸が不思議そうに言った。

「《キッポウシ》とは、一体誰なのだ?」

さっぱり分からないといったふうに濃に尋ねると、

濃は豊太丸を見つめて、平然と答えた。

「わたしの夢に、現れるひとです」

…『夢に現れるひと』?

予想外の答えに各務野は驚き、なにも言えなかった。

豊太丸は呆れたように、ため息をつく。

「なんだ、夢の話か。では、《キッポウシ》という奴は、この世に存在しないのだな」

バカにされたと思ったのか、濃は珍しく反論する。

「吉法師は、この世にいます。だって、いつも楽しいお話をしてくれて…」

「夢の中で、だろう?」

兄に意地悪く返されて、濃は俯いた。悲しそうに「そうだけど…」と呟き、それからハッとなにかを思い出したように、勢いよく顔をあげた。

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