《MUMEI》 嬉々とした表情を浮かべて、彼女は言う。 「吉法師に、名前を貰いました」 各務野は眉をひそめた。 …名前? 「…名前とは、どのような?」 いきなり尋ねたので、濃はキョトンとしていた。それでも各務野の質問に、律儀に答える。 「わたしの好きな『蝶』の文字を使って、『帰蝶』…必ず、吉法師のもとへ帰るように、と。そう、名付けてくれたの」 各務野は言葉を無くした。 『帰蝶』。 確かに濃はそう言った。 …あの乙女も、『帰蝶』と名乗った。 しかも、美濃国の内情に恐ろしい程詳しいようだった。 そして、《キッポウシ》という人物。 尾張大名の息子ならば、まだ幼い…おそらくは濃よりも小さな子供だというのに、濃が出会ったのは、年上の者だった。 しかも《キッポウシ》は、夢の中でしか、現れないという。 …これは一体、どういう偶然だろうか? . 前へ |次へ |
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