《MUMEI》
・・・・
 「柄にもなく余計なことを口にしてしまった、くだらない話は終わりだ。
 せめてもの慈悲だ、オレの手で葬ってやろう」
 啖呵を切りはしたが、いまカイルが置かれている状況はけしていいものとは言えない。負傷してしまっている以上カイルが得意とする光速の攻撃に陰りが射してしまうのだ、それでなくても高い防御力と攻撃力を誇るアーヴァンクは強敵になり得るのに充分すぎる。
 この傷では魔力放出をしたところで痛みに耐えきれず弱まってしまうのは目に見えている。身体に負担のかからない移動法、浮遊や空間転移が出来ればどれほど良かったか、カイルは自分の特性を呪い、密かに眉間を寄せる。
 「よくもまあそれだけのホラをつぎつぎと吹くものだ」
 それを見透かしたようにアーヴァンクは嘲笑い、始まろうとしている退屈しのぎの遊戯を満喫しようとする。
 「すぐには殺さない、お前にはエリザが受けた苦しみを味わってもらおう。痛めつけ、生きていることに苦痛を感じるまでとことん嬲り尽くし、そして私に出会ったことを呪いながら死んでいけ」
 飽きるまで玩び、物以下のようにぞんざいな扱いを以て殺そうという。その言葉からこの怪物が必要以上にカイルに固執していることが見て取れた。
 おそらくはエリザに並々ならぬ感情を持ってしまったのであろう。そのため彼女をいまのようにさせた要因でもある兄に憎しみを抱いているのだ。
 アーヴァンクの想いを察した上で、それでもカイルは挑発的な態度を止めようとはしない。彼はつまらない物を見るように目を細める。
 「前口上はそのぐらいにしておけ、それ以上話せば程度が知れることになるぞ」

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