《MUMEI》

「もうそろそろ着くから荷物持って税関の前に固まってろだってさ…何してんだ」
「コイツ焼き餅やいてんだよ〜」
「ふん…」

小猿のように俺にしがみついているかなたを、はるかが携帯を折り畳みながら呆れたような顔で眺めていた。




流れてくるコンベアの前で荷物を待っていると、いきなり目の前に居たカップルが抱き合ってキスをしはじめてしまった。

「えへへ///武♪俺達もココで同じ事しちゃう?」
「なっ…できっかよ///」

さっきまで不機嫌だったくせに、すぐに元気になっちまって…。

それにしても、よく人前であんな事出来るなぁ…と思いつつ、そういえば授業中に似たような光景が思い浮かんだ。

いつも隣のクラスから何故か来ていたかなたが膝の上に座って、ボーッとしていた俺にいつもいちゃいちゃと何かいろいろしてきて…。

(…結局周りに同じ事してたんじゃねぇかよ)

コレが”人のフリ見て我がフリなんとか…”ってやつか。

思いもよらず日本のことわざを海外で実感してしまった。


(にしても…遅せぇな…)

預けた荷物が出てくるまでの時間が長い…双子に聞いてみるといつもこんなモンだと言っていた。

ドイツなんかはいい方で他ののんびりした国だったら1時間くらい出てこないよ〜という話を聞いてゾッとした。

荷物が出てくるまでの間、ずっと手持ちぶさたになってしまってかなたの方を見ると手前でユラユラとその金色の髪が揺れていた…。

「…んふッ///」
「何だよ」
「だって///」

かなたのこの金色の柔らかい髪が好きなんで、気づかないウチにいつもの癖で触っていたらしい。

「ぁ…すまねぇな」
「うぅん///」

かなたはくすぐったそうに身体をよじりながら、俺に向かって可愛らしく笑っていた。

「ねぇ武…」
「何、だよ…」

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