《MUMEI》 或る、晴れた日に. −−−−−吉法師と、夢の中で会えなくなってから、 わたしの傍には、いつも各務野がいた。 彼女はよく、わたしの面倒を見、 美濃国の姫として生きるために、 様々なことを教えてくれた。 そして、もうひとり。 兄上である、豊太丸様が、 わたしに構ってくるようになった…。 いつもの読み聞かせが終わると、各務野は書物を持って、わたしの部屋から出て行った。 残されたのは、わたしと、 そして、兄上の豊太丸様。 わたし達は、しばらく黙り込んでいたのだけれど、 不意に豊太丸様が、縁側から覗く青空を見ながら、おもむろに言った。 「今日は、良い日だな…」 わたしは黙って頷いた。 空は、目が覚めるような青。美しく囀る、小鳥達の、声。 そのどれもが、この世界の素晴らしさを物語っているような感じがした。 前へ |次へ |
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