《MUMEI》 聞けなかった言葉少し間を置いてから、豊太丸様は、言った。 「濃は、美濃が好きか?」 唐突な質問に、わたしは少し考えた。 美濃には、各務野や豊太丸様、そして気の優しい侍女達や、血の繋がりはないが、たくさんの兄弟達がいる。 なにより、この美濃は父上が…わたしを救ってくれた恩人が統べる国。 好きではないと答える理由は、無かった。 わたしは豊太丸様の横顔を見つめ、答える。 「好きです」 わたしの返事に、 豊太丸様がゆっくり、振り返る。 わたしの目をまっすぐ見つめ返し、 はっきりした声で、言った。 「ずっと、この国に居たいと思うか?」 わたしはまた、考えた。 この美濃国と、 夢の中で吉法師と出会った見知らぬ場所、 そして今は無き、あの山里。 それ以外に、わたしが知っている場所はない。 そして、わたしが一番身近に感じている所は、 他でもなく、この美濃の国だった。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |