《MUMEI》
聞けなかった言葉
少し間を置いてから、豊太丸様は、言った。

「濃は、美濃が好きか?」

唐突な質問に、わたしは少し考えた。

美濃には、各務野や豊太丸様、そして気の優しい侍女達や、血の繋がりはないが、たくさんの兄弟達がいる。
なにより、この美濃は父上が…わたしを救ってくれた恩人が統べる国。

好きではないと答える理由は、無かった。

わたしは豊太丸様の横顔を見つめ、答える。

「好きです」

わたしの返事に、
豊太丸様がゆっくり、振り返る。
わたしの目をまっすぐ見つめ返し、
はっきりした声で、言った。

「ずっと、この国に居たいと思うか?」

わたしはまた、考えた。

この美濃国と、
夢の中で吉法師と出会った見知らぬ場所、
そして今は無き、あの山里。

それ以外に、わたしが知っている場所はない。

そして、わたしが一番身近に感じている所は、
他でもなく、この美濃の国だった。

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