《MUMEI》

わたしは豊太丸様の目をまっすぐに見つめて、
頷き返す。

すると、彼は、

「それでは…」と、

ゆっくり言葉を紡ぎ出した。


「俺が、元服をしたら、一人前と認められたら…」


そこまで口にした時、

姿を消していた各務野が、盆を持って舞い戻ってきた。

「白湯をお持ちしました。少し休みましょう」

軽やかなその声を聞き、豊太丸様はハッとして、口を閉ざした。わたしも各務野を振り返る。

わたし達の視線を浴びた各務野は、キョトンとして首を傾げた。

「どうかされましたか?」

不思議そうに尋ねた彼女に、豊太丸様はムッとした顔をして、「なんでもない」と早口に答えると、バタバタと慌ただしくわたしの部屋から出て行った。

各務野は訳が分からないといったふうな表情を浮かべ、わたしの方を見た。

そういうわたしも、豊太丸様がなにを言わんとしていたのか、そして、なぜ急に機嫌を損ねたのか分からず、各務野を見つめ返し、首を傾げた。

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