《MUMEI》

 「あらら、随分と綺麗になっちゃったわね。ヒトの世は」
二人が降り立った人の世
以前来た時より花は更に咲く量を増していた
脚を捕られてしまいそうな程のそれらを蹴散らしながら歩き進んで行けば
途中、ヒトと出くわした
「これは魔族様。こんな処でお会いするなんて珍しい」
穏やかに始まる会話
その表情は何故か楽しげで
この異様としか表現しきれない状況で何故笑って居られるのかと
二人は互いに見合わせまた訝しげな顔だ
「随分とまぁ様変わりしたわね、此処も。一体何があったのよ?」
アルベルトが口調も軽く問う事をすれば
女は更に笑みを深くすると、脚元の花を一輪引き千切った
「これは、前兆ですわ。魔族様」
「前兆?何のよ?」
唯ひたすらに花を手折る女性へ、明らかに怪訝な顔をアルベルトは向け
その様に、やはり女性は笑ったままだった
「解らないのですか?なんて愚かな……」
「悪かったねぇ。何分、あんまり脳みその出来が良くないもんで」
「そう、ですか。ならば、教えてあげましょう。これは、」
此処で一度女性はことばを区切り
手折った花を差し出して向けながら
「……これは、この世界の(餌)が切れる。その前兆なの」
言いながら女性が指を差したその先
多くの朱に混じり一輪、白の花が咲いていた
「……大殿?」
その白の花を眺め見ていたアルベルト
一人事に呟くと、その近くへと近く寄り
一体何事かをクラウスは問う
しかしアルベルトは返す事をせず、唐突に剣の柄で土を掘り返す事を始めた
暫く掘って、そして
現れたのは白骨
全身が全て揃い、完璧に人の骨格を現す
「アルベルト、この骨は……」
確認するかの様にアルベルトへと問うて向ければ
花へとアルベルトは耳を傾け、暫く後
一人で頷いていた
「……そいつは間違いなく大殿だ。花どもが、そう言ってる」
草花との意思疎通ができるアルベルトが花から見る事の出来たそれで納得しかけた
次の瞬間
突然、白骨が乾いた音を立てながら動く事を始め
そして、高く跳ねた
何所へ行くのかと行く先を見てみれば
魔界・ジゼルの屋敷
それを追いかけようと慌てて二人が踵を返せば
その背後から女性の笑う声が微かに聞こえてくる
「……どんな姿になっても親は親ね。子供が恋しくない筈がない」
「……お前」
「魔族様、追わなくてもよろしいのですか?あの骨は(子供)を殺そうとしているのに」
共に逝くために、と耳障りな声に返す事をする前に
二人は踵を返しその後を追う
屋敷へと到着し、戸を派手に開けば到る処に使用人達が倒れていて
アルベルトはすぐさま怪我人のいぇあて、そしてクラウスは主の部屋へと階段を駆けて上がる
「お嬢様!」
戸を叩く事もせず中へと入り、そして見た其処には
白骨に全身を捕らえられているジゼルの姿
クラウスを見るなり、救いを求めるかの様に手を伸ばしてくる
その手を取ったとほぼ同時に
何かを突き刺すような鈍い音が室内に鳴った
ジゼルばかりに異を取られていたクラウスの腹部が、白骨の鋭利にとがったソレで刺し抜かれた音
床に、血溜まりが出来る
「クラウス!!」
突然の事に耐えきれず片膝をついてしまったクラウス
手が出せなくなった事を察したのか、白骨はジゼルを捕らえたまま身を翻し
その場を去ろうとしていた
だがそれをクラウスが見逃してやる筈もなく
動きにくくなってしまった身体に喝を入れ
白骨の脚元をクラウスは払ってみせた
崩れる骨
解放されたジゼルはしっかりとその腕に抱いてやる
「クラウス……」
「お怪我は、有りませんか?」
「私は、平気。でも、クラウスが……」
心配気な顔をするジゼルへと穏やかに笑んで向け、その彼女を自身の後ろへと下げると
剣を鞘から抜き、身を構え白骨の頭部を打って砕いていた
たったそれだけの事でその白骨は全て崩れ落ちてしまう
余りの軟さに訝しんでいると
「この程度の骨にそのザマとは。無様だな。クラウス・ブルーネル」
何処からかハイドの声が聞こえてきた
何所に居るのか、と辺りを見回すクラウスの背後にその姿は現れて
同時に振り下ろされる刃
クラウスの腕の中に居るジゼルへとそれは降ろされ
だが迫り過ぎた距離故に交わす事は出来ず

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