《MUMEI》
・・・・
 余裕の表情を作ってみせカイルは身の丈ほどもある長剣を握り締める。
 どこまでも嘯きつづけ、エリザを守りきることの出来なかった男にさらなる苛立ちが募る。
 「人間風情が――」
 アーヴァンクは勢いよく飛び出し、対峙していたカイルも対応し前へと出た。
 両者が交わり、自慢の大口を開きカイルを丸呑みにしようしたアーヴァンク。そこから見えるのは剥き出された牙とサーモンピンクの口蓋。
 ひとたび噛みつけば、食い千切るまで放さない強い顎が音を立てて閉じられた。
 上下が合わさるが、そこに標的は存在しない。カイルは寸でのところで躱していた。
 攻撃を躱した際、わずかだがカイルの表情に苦悶が出る。多少の傷を負った程度でこれほどまでに自分の速さが激減してしまうとは。考えていたものよりも傷の干渉は大きなものだった。
 思い通りに動かないもどかしさから舌打ちしたい気持ちが湧き上がるが、すぐに抑え、すれ違いざまにその甲を断とうと身の丈ほどもある長剣を斬りつける。
 しかし剣身は沈むことなく甲の上を滑るだけ。でこぼこの甲に反発される長剣は持ち主の言うことを聞かず、動きを遅れさせた。

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