《MUMEI》 『あの日』の続き. −−−宴が済んだ後。 新九郎は、濃の部屋へ赴いた。 女どもは宴に参加することが許されていないので、濃も、己の部屋でおとなしくしていると思ったのだ。 新九郎が縁側から部屋を覗くと、 濃は几帳の奥の方で、書物を呼んでいた。 齢12になった濃は、国一番の美しい姫君へと成長していた。 その、艶やかな姿に見惚れながら、新九郎は彼女に呼びかけた。 「濃」 新九郎の低い声に、濃は顔をあげた。 白い肌に浮かぶ、漆黒の双眸を兄へと向ける。 「豊太丸様…」 譫言のように自分の幼名を呼んだ妹姫に、彼は苦笑する。 新九郎は部屋に入りながら、「もう豊太丸ではない」と訂正する。 濃はひとつ瞬いて、「そうでしたね…」と呟いた。 「新九郎義龍様、宴は済んだのですか?」 かしこまった言い方に、新九郎はヤレヤレといったふうに、ため息をつく。 「そなたは変わらんな。昔からそうであった…」 懐かしむような言葉に、濃は首を傾げる。 「どうかされたのですか?」 濃の問い掛けを無視し、新九郎は彼女の隣に腰を下ろす。彼はかなりの長身である為、その動作ひとつひとつがゆったりとしていて、とても優雅なものに見えた。 前へ |次へ |
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