《MUMEI》

黙り込む濃に、新九郎は続ける。

「まだ少し先になるが、俺は家督を継ぎ、ゆくゆくは美濃の鷺山城・城主になる。その時、正式にそなたを迎えたい」

突然の申し出に、濃は珍しく狼狽した。
確かに、新九郎とは血の繋がりは無い。けれど、濃は、城主・道三の意向により、この美濃国の末姫として育てられたのだ。

表向きは、兄妹である二人。

許される筈がない。

濃はゆるりと瞬き、しっかりと新九郎の顔を見つめた。

「お戯れは、お止しくださいませ」

凜とした響きの妹姫の声に、新九郎は黙り込んだ。
濃は彼を見つめたまま、続ける。

「わたしは、美濃国当主・斎藤山城守道三が娘。新九郎様とは、兄妹の間柄でございます。そのような契りが、許されるとお思いですか?」

毅然とした態度で尋ねると、新九郎は首を振った。

「兄妹といっても、血の繋がりはない。赤の他人ではないか。何の問題があるのだ?」

理解出来ないといった口ぶりだった。新九郎は続ける。

「そなたは美濃が好きだと、ここに居たいと、幼き頃に、そう話していたではないか」

濃は驚いた。そんな昔の話など、すっかり忘れていたからだ。

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