《MUMEI》
それぞれの想い
濃は恭しく頭を下げ、続けた。

「新九郎様には、自身に相応しい女子と身を固めて頂けますよう、わたしも切に願っております」

濃の返事に新九郎は表情を固くした。眼差しに鋭さを滲ませ、強い口調で言った。

「俺に相応しい女子、だと?」

濃は顔をあげ、新九郎の顔を見、「はい」と答える。新九郎はますます険しい顔つきになると、いきなり濃の肩をガシッと掴んだ。

突然のことに驚いていると、新九郎が押し殺すような声で、言ったのだ。

「俺は、そなたがいい。それ意外には、考えられない」

濃は目を見開いた。驚きのあまり口を閉ざしていると、新九郎は濃の肩を掴む手に力を込め、まくし立てた。

「どこの誰かもわからぬような輩のもとにそなたをやるくらいなら、俺がもらう。そなたが他の男のものになるなど、耐えられぬのだ」

真剣な声に、濃は怯んだ。
本気なのだ。
戯れでも、濃の行く末を案じたわけでもなく、
新九郎は、濃のことをひとりの女として見ているのだと、ようやく気がついた。

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