《MUMEI》

「で、どうするんだ?」
ケンイチの質問にユウゴは「そうだな」と視線だけをビルの方へと向ける。
入口には警備員が二人配置されていた。
彼らはビルへ入ろうとする人間の顔をじっと睨むように見ている。
ユウゴはそのまま視線を横へと動かした。
駐車場の位置を確認したかったのだが、この位置からでは見ることができない。
「駐車場の入口は多分、ビルの裏だろうな。一人はここで目標が来るのを見張って、あと二人は駐車場だ」
「じゃ、俺は駐車場な」
ユウゴの声にケンイチがすかさず手を挙げる。
「あと、織田も駐車場だな。ケンイチが止めて織田が中の奴を縛って車を奪う」
「わかった」
織田は小さく頷いてみせる。
「おまえもいいな? 織田が捕まえた奴を殺さずに見張るんだ」
ユウゴがケンイチを見ると、彼は「わかってるって」と頷く。
ユウゴは二人を見ながら「で、問題は連絡手段なんだけど、おまえら携帯とか持ってたりする?」と聞いてみる。
しかし二人は同時に首を横に振った。
「だよな。どうするよ? あと、捕まえた奴を縛る物も必要だろ」
「おまえ、なんで先に言わねえんだよ。先に言っとけばどっかで買えただろ」
「はあ? 俺のせいかよ。つうか、おまえのその鞄の中には使えるもん入ってないのかよ」
「これ? いや、この中には……」
言ってケンイチは鞄を開けて中を探りはじめた。
しばらく待っているとケンイチが「あー……」と声をあげながらビニール紐の束を取り出した。
「あるんじゃねえか!」
「なあ? 俺も忘れてた。忘れついでにこんなのもあったりして」
そう言いながら彼が取り出したのはおもちゃのトランシーバーだった。

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