《MUMEI》 「……母さんはどうするんだ、病院で喜んでいたじゃないか。」 七生のお祖母さんのことだ。 「修平さん、多分、お義母様は仮病です。 車椅子から降りて歩いていたの見ました……そういうおバカさんなとこ私は嫌いじゃあないですけど、七生君にはいいんじゃありません? だって、リサさんのこともそうだったでしょ。眼の手術がある私に付いてリサさんと別れたりして、若い愛を潰しては駄目。 修平さんがリサさんを思い続けてるように彼も深い傷痕になってしまう。」 神部の男らしさは鮎子さん譲りだ……。 「鮎子、リサのとは話が」 「同じです。 私がどれだけ貴方を見ていたと思います? 私は嫉妬深い女ですから、修平さんが二郎君にリサさんの面影を追い掛けるのも気になりますし、リサさんの子の七生君に期待をかけることも気になります。」 確かに修平さんはとても七生を気にかけていた。 「母さん、いいよ。」 神部が頭を振った。 「父さん、兄さんの方が確かに存在感も指導力もある。だけど俺、父さんの仕事継ぎたいんだ。それで、瞳子を振り向かせる。」 神部……健気だ。 「おーちゃん、そうだったのか、ごめんな!父さん察してあげられなかった!」 修平さんの、すぐ抱きしめるとこが七生と似てる。 「父さん、俺、日本に残ってまた前の柊荘に戻るよ。父さん達は大事な家族だ、けどそれと同じくらい二郎も俺の家族だから。」 今までで一番かっこいい七生だ。 「あゆ……七生が父さんっていってくれたあ!」 修平さんの腕の中で神部が窒息しそうになってる。 鮎子さん、あゆって呼ばれてるんだ。 「おーちゃん、最近、英語に熱心だったのは海外に行くからだったのか」 「ええっ、ついてきてくれるの!」 修平さんが嬉しそうに神部を持ち上げた。 「手紙頂戴ね、おーちゃん。」 七生はお見送りモードだ。 「書くよ!書く書く!」 神部より早く修平さんが答えた。 「桜介が本音を言えたお礼にメイド服はあげるわ。」 こっそり鮎子さんが背後から囁かれた。 ……もう袖を通すことは無いだろう。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |