《MUMEI》

ジゼルの身を抱き込み、クラウスは自身の背を盾にしていた
また、クラウスの血でジゼルの視界が染まり
「……嫌」
目の前で苦痛に顔を歪めるクラウスへ
荒くなっていく呼吸に、ジゼルは彼のシャツの胸元を強く握りしめていた
そんなジゼルへ、クラウスは何とか笑みを浮かべて見せながら
だが、その直後
彼の身体は崩れおちていく
「そうやって、惨め無様に這いつくばっているといい。これは、貰っていくぞ」
完璧に床へと伏してしまったクラウス
ハイドは嘲笑を向けるだけでジゼルを無理矢理に抱え上げるとその場を去っていった
傷を負い過ぎた身体で追う事は叶わず
目の前で主を奪われてしまった事にクラウスは舌を打った
床に這いつくばったまま動く事を始め何とか部屋の外へと出れば
その姿を見つけたアルベルトが驚愕の表情を浮かべる
「クラウス!?」
散々な様子のクラウスへと掛け寄り、身を起してやれば
軋む身体を無理やりに立ち上がらせる
「ちょっと待て!そんななりで何所行くつもりだ?」
おぼつかない脚取りで歩き始めたクラウスの腕を掴み引きとめるアルベルト
その引きにクラウスは微かに視線をそちらへ向けると
掠れる声で事の成り行きを話し始めた
「……焦る気持は解らんでもないがな。そのザマで行ってみろ。速効返り打ちにあうぞ」
「……」
呆れている様な物言いにクラウスは返す言葉もなく
だが大人しくしている事など出来なかった
今すぐにでもジゼルを助けに向かいたい、と
気ばかりが焦る
「お前って、本っ当そんな性格してるよな」
更に呆れた様な声で言って向け
そしてクラウスへと包帯を手渡してきた
「手当はテメェでやれ。こっちは任されてやるから」
背を向け手だけをあげて向けるアルベルト
その手の平へと拳をクラウスは打ち付けると
自身の手当も適当にテラスから外へと飛んで出る
降り付いた先は人界と魔界を隔てる扉の前
其処に、まるでクラウスの行く手を阻むかの様にケルベロスの姿があった
ハイドに付き従い、ヒトに感化されたのか
クラウスと対峙するなり飛びかかってくる
「……この馬鹿が!」
喉を裂こうと爪を伸ばしてくるケルベロスを何とか鞘で防ぎながら
自由になる脚でその腹を蹴りつけていた
その弾みで後方へと飛ぶ獣
土へと伏してしまったその獣へ
クラウスは漸く剣を抜くとその切っ先を向け
躊躇することなくその首を斬って落としていた
「邪魔は、するな」
短く吐き捨て、クラウスは人の世へ
降りて見れば其処は一面の花の園
服風に煽られ舞いあがる花弁を煩わしく感じながら
取り敢えずは歩いて進む事をし
そしてすぐに、ヒトの影に出会う
「……あら、もう来たの?クラウス」
「ジキル……」
「……ケルベロスはさして役には立たなかったという訳ね。流石は獣。あの程度では貴方は倒れない」
「……お嬢様は何処だ?」
話すジキルに構う事はせず
自身の目的を端的に問う
ジキルはこれ以上ない程に柔らかく笑うと、
自身の目の前、花園の最奥を指差した
その先に見えたのはハイド
すぐさま土を蹴り、刃を突き付けながら近く寄ったクラウスがジゼルの所在を問質す
微かに笑う声が返り、そしてハイドは顎をしゃくって見せる
その先には
大量の花
その蔓に戒められ、意識を失っているジゼルの姿があった
眼を閉じたままピクリとも動かないジゼルの姿を見
当然、助けようと土を蹴ったクラウス
だが途中、ハイドによって阻まれてしまう
「……邪魔はするな。今日、全てが生まれ変わる。その様を大人しく見ていろ」
「ふざけるな。さっさとソコを退け!」
剣をハイドへと振って向け
ソレをハイドは軽々しくかわす
ハイドもまた剣を引き抜き、クラウスのそれと重ね合わせていた
「……滅べば、いい」
「何?」
刃を交え、そしてクラウスの苦い声
何の事かを訝しむハイドへ、だがクラウスは返す事はせず
ハイドの刃を弾くと距離を取った
「何かを犠牲にしなければ保てない世界なら、いっそ滅べばいい」
その方が潔い、とのクラウスに
ハイドは嘲る様な笑みをその口元に浮かべながら

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