《MUMEI》

「……嗚呼、可哀相に。こんなに弱った樹、俺が抱いてあげるのに。」
アヅサは愛おしそうに片腕を摩った。


ふと悪寒がした。
「もしかして

………………斎藤にそういうことした訳じゃないよな……?」



「   やだな

樹一筋だし。
せいぜいキスしたくらいだって」




    「 ! 」

樹は目が泳ぐ。動揺が隠せない。


「あはははは!
樹が欲しいと思って。
どきどきした?」
アヅサは笑いが我慢出来ず口を押さえる。


「アヅサの事が分からなくなってきた。」


「俺は樹が好きだよ。
愛している。」


「警察、行くべきかな。」


「俺がやったんだ、
樹は無関係さ。
証拠は無い。」
まだアヅサは笑みを浮かべている。



「―――なあ、
アヅサは人を殺したことがあるのか?」
高まる心音が鳴り止まない。



 「―――――あるよ」


  「………え」



「 嘘だよ もういーや、また今度ね。お休み。」
間髪入れずにアヅサはいなくなった。

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