《MUMEI》
尾張の『うつけ』
長井道利は、主君・道三の御前で頭を深く下げていた。

「…間諜の報告によりますと、尾張に潜む土岐頼芸が織田と共謀し、美濃奪回を謀っている模様です」

報告を聞いた道三は難しい顔をし、ふぅん…と唸る。

「頼芸め、小賢しいマネを」

道三がフンと鼻を鳴らし毒づくと、道利は顔をあげた。
真剣な眼差しを、主に向ける。

「頼芸を擁護する織田信秀殿が、いつ攻めてくるやもしれませぬ…その前に、なにか策を企て、手を打った方がよろしいかと」

道三は脇息にもたれ、頬杖をついた。
そして、ため息混じりに答える。

「焦らずとも、どうにかなろう。織田は守護大名といえど、尾張は小国…規模は小さい」

のんびりとした口調の道三にヤキモキしながら、道利は「しかし…」と反論しようとしたが、
それより早く、「織田といえば…」と道三が先に言った。

「当主の信秀の三男は、どうしている?」

急に話が変わり、道利は戸惑ったが、考えを巡らせ、答えた。

「織田の三男、のことでございますか?」

問い返した道利に、道三は頷く。

「三男ながら正室の子…織田の嫡子として育てられているらしいが、その器量はいかほどのものか?」

道利は考え込み、首を傾げる。

「さあ…まだ幼く、元服も済ませていない故、よく存じませぬが…」

そこまで呟いて、ハッと思い出し、道三を見つめて言った。

「そういえば、おかしな噂を耳にしました」

「噂?」と道三が聞き返すと、道利は深々と頷いた。

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