《MUMEI》

道利は、口元にニヤリと笑みを浮かべ、続ける。

「その三男…確か幼名が吉法師というのですが、世間の常識を無視し、傍若無人な振る舞いをしていると…」

道三は表情を変えず、黙っていた。

《キッポウシ》

それはいつか、『帰蝶』とかいう乙女が、口にした名だった。

道利は、思い出したように笑う。

「勉学をせず、毎日畑を荒らしたり、川遊びに興じたり…尾張の者達には『うつけ』と呼ばれているとか。父の信秀殿も、己の跡取りの行いに、ほとほと手を焼いていると聞きました」

道三はじっと話に耳を傾けていたが、不敵に笑い、呟いた。

「成る程、『うつけ』か…」

「それは面白いのう」と、低い声で笑う。
道利は頷きながら、続けた。

「まだ10にも満たない童子故、勝手な振る舞いをするのは分かりますがね…国の民に、そこまで軽んじられるとは、全くおかしなこと…」

道利は我慢出来なくなったようで、声をあげて笑った。道三は笑い転げる道利を眺めていたが、突然、思い立ったように「よし!」と声をあげ、道利に凄みのある笑みを見せ付ける。

「土岐や織田が仕掛けてくるのを待て。こちらからは一切動くな。奴らの足元をすくってやろうぞ」

主の命に、道利は居住まいをただし、恭しく頭を下げた。



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