《MUMEI》
父と子
.


ある時、


新九郎は、道三のもとを訪れた。

自分の前で頭を下げている、逞しくなった息子の姿を見て、道三はため息をついた。

「どうした、新九郎。話でもあるのか?」

新九郎は下げていた頭をあげ、まっすぐに父を見つめる。その瞳は真剣そのものだった。
新九郎は道三を見つめたまま、口を開いた。

「この度は、父上にお願いがあって参りました」

道三は眉をひそめ、「なんだ?」と問い掛ける。新九郎はひとつ瞬いて、答えた。

「父上の加護のもと、わたしも無事に元服を済ませ、ひとりの男として、この国に身を埋める覚悟にございます…」

かしこまった口調にうんざりした道三は、荒々しくため息をついた。

「つまらん口上は、やめろ。聞いていて、虫酸が走る。用件はなんだ?」

先を促され、新九郎は黙り込んだ。言いにくそうに顔を俯かせる。

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